2018年6月29日金曜日

「Kick me to the moon」 4年 篠原力




「Kick me to the moon」
4年 篠原 力

 いつもの朝練が終わると、体重を計り、スパイクを置いて食堂に戻ってくる。時計を見るとまだ8時を過ぎたばかり。
マネージャーが作って置いてくれているおにぎりを食べ、みんなで並んでプロテインを飲む。
テレビは大体、昨日の夜録画した番組が流れていて、内容も覚えていないがみんなが大笑いしている。数少ない洗濯機は4年生がその球際の強さで勝ち取る。
4年間の積み重ねである。この時間はとにかく騒がしい。どんなにきつい練習の日も、大雨の中叫びながら走っていた日も。


 時間はいつでも速すぎて、毎日は滑るように過ぎていき、そしてまたいつもの朝練に向かっている。

 
 
 気がつけば学生生活最後の年も半分に来ていて、履歴書を片手にスーツを着て出かけていく同期を横目で見ながら、来年の今頃は何をしているんだろうと考える。
サッカーのことを考え、生活のことを考え、自分は責任ある立派な大人になれるのか、なるためにはどうするべきだろうかと考える。

 

 あるべき姿とは何だろうか。正しいことをして尊敬される人になって良い人生でしたねと言われるべきなのだろうか。
完璧に憧れ、無いものばかりを求め、いつも何かが足りない気がすると。
自分にあるのはひたすらに生きてきた日々、そこにいた仲間たちだ。毎日、日も昇る前から走り回って、何が面白いかも分からないことで笑って、騒いで、週末の試合に全てを懸ける。
 
 
 
 試合の時、明治は校歌を全力で歌う。誰かに言われたからとかあるべき明治だからとかではない。明治が好きだから歌う。
あの愛すべき日々を歌っている。

 
物事の善し悪しや理屈を飛び越え、内に秘める熱い気持ちがこの身体を動かし、誰かは誰かを思い、世界は感情で動いている。

 
間違っていたと後悔することもあるだろうし、自分があまりに小さく無力に思えることもあるだろう。あるいは頑固で自己中心的でサイコパスだと思うだろうか。それでも眠い目をこすって起き上がり、今日こそはやってやると意気込んでグラウンドに向かい、全力でボールを追いかけ、全力で今日を生きて、ああ今日は月が綺麗だなと言いたい。
 
【過去の記事】
「チャンピオンたちは朝食で何を考えるのか」 3年 篠原力
「八幡山の戦士」2年 篠原力

 

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